浴衣を買いに

「千冬……浴衣買うから選ぶの手伝って」
「えっ……何だって?」
 珍しくタツキに頼まれ、千冬は思わず聞き返した。
「今度お祭りがあるから……その時に着る浴衣を買いたいの。どんなのがいいのかわからないから、一緒に選んで」
「お、おう。わかった」
「……これだけあれば買える?」
「買えるけど……どうしたんだよその大金」
 ちょっと分けてくれ、と言いたくなるのをこらえ千冬は問いただした。
「母さんがたまに余分にお金を送ってくるから、貯めておいてた」
「……じゃあパパにお小遣いくれないかな……」
「浴衣選んでくれたら、考える」

「よーし早いところ選んでお小遣いゲットだ」
「真面目に選んでよ」
 翌日。千冬は学校から帰ってきたタツキを連れ買い物に出かけた。適当に可愛らしいのを選んで済ませるつもりだったが、思っていた以上に浴衣の種類が多く、タツキも決めかねているようだ。
「美月ちゃんが可愛いの着てくるだろうし、タツキちゃんは落ち着いた感じの色でいいんじゃないかなー。そりゃあ美月ちゃんが着そうなピンクも似合うだろうけど」
「何で朝野が出てくるの」
「一緒に行くんだろ、美月ちゃんと」
「……朝野じゃなくて先輩」
「先輩って、あの少年? おいおいデートかよ」
「デートじゃない」
 不機嫌そうに答えるタツキに、千冬は藍色の浴衣を押し当てた。
「それならちょっと地味なやつにしようか。あんまり可愛いとあの子が誤解するだろうから」
「じゃあこれでいい」
 千冬が選んだ浴衣を、タツキは大事そうに抱えた。

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