義父と先輩と
「それで、お義父さん、お話というのは」
「君にしか頼めないというか、君だからこそ頼めるというか。とにかく少年、タツキちゃんのために手を貸してくれ」
あれから数日後。家の近くをうろつく大介を見つけ、千冬は思いきって大介を家に上げた。タツキは今頃美月の家で宿題をやっているだろう、と教えると残念そうな表情になったが、タツキのいない今がこの少年に救いを求めるチャンスだ。おおざっぱにナツと名乗る男の話をすると、大介の顔がみるみるうちに青ざめた。
「た、大変じゃないですか。そんな危ない方がタツキさんを狙っているなんて」
「そうだろ? 家にいる間は俺がなんとかするつもりだけど、学校に行ってる間はどうしようもないからさ。目の届く範囲でいい、タツキちゃんが学校にいる間にあいつが近づかないよう気をつけていて欲しいんだ」
「大丈夫です、僕はいつでもタツキさんを見守っていますから。下校のときだって、変質者にからまれないよう後ろからこっそり追跡しています!」
大介が胸を張る。彼も十分変質者の域に入るような気がするが、これほど頼もしい味方はいないだろう。
「うん……それなら安心して君に任せられるよ。あいつこの前タツキちゃんの手にキスしやがってさ、タツキちゃんは嫌がってたけどホントムカつくよな」
「て、手に……」
「頭に来るだろ? ところで君はさ、タツキちゃんと付き合ってんの?」
千冬からの突然の問いに、大介は顔を真っ赤にした。
「つ、付き合うだなんてそんな……でもいずれは」
「じゃあ裸見るどころかキスしたことも無いのか」
「とと、当然です、裸だなんてとんでもない!」
「いや、美月ちゃんだっけ、あの子がさ、タツキちゃんの胸は小さいけど綺麗だって言ってたからさ」
想像でもしたのか、大介が鼻血を噴いた。手渡したティッシュがすぐ血に染まっていく。青くなったり赤くなったり忙しい奴だ。
「見てるわけないじゃないですか! それより、その危ない方の特徴を」
「水色の派手な頭してるから一発でわかる。それに見るからに殴りたくなるようなロリコンだ。タツキちゃんに変なことしようとしたら構わず一発お見舞いしてやれ、パパが許す」
「お、お義父さん……任せてください、僕が必ず変質者の手からタツキさんを救い未来の夫としてタツキさんを幸せにします!」
「いやそこまで認めてねーぞ」
調子に乗らせると図々しい。見た目はいいのに残念な少年だ。あんな不愛想なタツキと結婚しようだなんて変わっている。気の毒なくらい残念だ。
「まぁそういうことだ、話は終わったから帰っていいぞ」
「ですが、タツキさんともお話を……」
「そこら辺は俺から言っとくから気にするな、だからさっさと帰って……」
玄関のドアが開く音が聞こえた。大介が嬉しそうに立ち上がり玄関に向かう。
「お帰りなさいタツキさん。大丈夫でしたか、変な人に遭いませんでしたか?」
「先輩……千冬、何で先輩がここに」
睨みつけるような視線に千冬はたじろいだ。千冬の代わりに大介が口を開く。
「タツキさん、お義父さんの知人の変質者に目をつけられているそうですね。でももう安心してください。僕が貴女を守りますから!」
大介が両手を広げてタツキに抱き付いた。腕の中でタツキがもがく。
「おいタツキちゃんから離れろよ少年」
「離れてください先輩」
タツキの声で大介が名残惜しそうに身を離し、すぐにタツキの両手を握った。
「変質者を見つけたらすぐ僕に相談してください、僕を未来の夫と思って」
「変なこと言わないでください、何かあったらすぐ知らせますから帰ってください」
なんとか手を引き離し、大介を帰した。大介がいなくなったのを確認しタツキは千冬を睨みつけた。
「先輩に変なこと吹き込まないで」
「でもあのロリコンにタツキちゃんがちょっかい出されるの嫌だし、あの少年なら学校にいる間もタツキちゃんのこと守ってくれるじゃん? それにタツキちゃん、さっき抱き付かれてまんざらでもなさそうだったし」
「そんなことない!」
顔を真っ赤にして叫び、タツキはカバンを抱えて部屋に向かった。