義父回

パパにおまかせ

 人の気配を感じタツキが目を覚ますと、元義父の千冬の顔がすぐそばにあった。
「おう、おはようタツキちゃん。朝ごはん出来てるぞ」
「……近い。離れて」
「せっかく起こしにきたんだ、おはようのチューでも」
「離れて」
 千冬が渋々起き上がる。ベッドから下りしばらくそこにいると、タツキに身体を押された。
「着替えるから出てって」
「手伝おうか?」
「出てけっ」
 千冬を部屋から追い出し、タツキは制服に着替えた。1階に下りると、千冬が朝食をテーブルに並べながらそわそわしていた。
「今日は目玉焼きじゃなくて卵焼きにしてみたぞ、どうだ美味いか」
「焦げてる」
「お、おう。あ、食べたらそのままでいいからな、後で片付けとくからさ」
「いい。自分でやる」
「お、おう」
 さっさと朝食をとり食器を片付けるタツキに、千冬は溜息をついた。
 ――たまには甘えてくれてもいいのに。

 迎えに来た美月と共にタツキは学校に出かけた。残った自分の分の食器を片付け、千冬は寝室のベッドに横になった。昔はこの隣に葉月が居て、たまにタツキを含めた3人で眠ったこともあったのに。
「相変わらず可愛げねーよなタツキちゃん」
 昔からあまり懐いてはくれなかったが、年頃であることを差し引いても千冬に対する態度は冷たい。葉月の娘であることが不思議なくらいだ。おそらく父親が、顔だけは良いが中身がどうしようもない男なのだろう。
「どこ行っちまったんだよ葉月ちゃん……」
 枕に顔を埋めるうちに、千冬は深い眠りに落ちていった。

 身体を揺さぶられ目を覚ますと、眉をひそめたタツキと目が合った。
「お、おかえりタツキちゃん。夕飯作ってやるから待ってろ」
「もう作った」
「……そうかい……」
 テーブルにつくと野菜炒めやポテトサラダが盛られた皿が並んでいた。時計に目をやるともう6時を過ぎていた。昼食もとらずに眠っていたことになる。
「うん、美味い。ところでタツキちゃん、学校はどうだったんだ、何か変わったことなかったか」
「特にない」
 会話が途切れる。ポテトサラダを口に運んだ千冬が視線を感じて顔を上げると、タツキがじっとこっちを見ていた。
「どうした、パパに見とれてたのか?」
「違う……今日、ずっと寝てたの?」
「お、おう。そういうことになるな」
「……仕事は?」
 千冬はむせ込んだ。慌ててお茶でポテトサラダを流し込んだが、タツキの疑うような視線は外れない。
「し、仕事な。お休み中というかなんというか、その、辞めたわけじゃないんだけどな」
「……どんな仕事?」
「どんなって……な、内緒だ、大人の世界には色々あるんだよ」
「そう」
 何か言いたげに口を開きかけたが、タツキは黙って夕食を口に運び始めた。

 全く会話のないまま、タツキは風呂を済ませ眠ってしまったようだ。
「……誤解されてちゃ困るもんな」
 タツキの部屋のドアをノックする。返事はない。部屋に入るとすでに電気は消えていた。
「タツキちゃーんパパと一緒に寝ようかー」
 反応はない。千冬はそっとベッドにもぐり込みタツキの身体に抱きついた。回した手に何かが触れる。おそらく肩だろう。千冬は手に力を入れた。
「んっ……」
 タツキが声をあげた。どうやら千冬に背を向けているようだ。手を動かすと、タツキの腕に当たった。その上の方が肩になる。となるとさっき触ったのは……。
「……千冬」
 タツキが千冬の手を掴んだ。怒っている。
「わ、わざとじゃないぞ、肩だと思ったんだ、まさか胸だとは……けどさっきの声なかなかエロかったぞ、やっぱり葉月ちゃんの娘なんだな」
「触るな変態っ!」
 千冬の手にタツキの爪が立てられた。
「痛い痛い」
「出てけ変態、二度と話しかけるなあっ」
「待ってくれタツキちゃんあのさ、落ち着いて」
 手を引っかかれ身体を押される。かろうじてベッドにしがみついたが、振り落とされるのも時間の問題だ。
「おいおい落ち着けって」
 手を伸ばしてタツキの両腕を掴み上にまたがる。タツキが顔を背けた。
「嫌っ」
「わ、悪ぃ」
 すぐに掴んだ手を離す。
「誤解だって、パパは別に可愛い娘に手を出そうとしたわけじゃなくてだな。その、もっとパパに頼ってくれていいんだぞってことを言いたくてだな」
「大丈夫だから仕事しろ。休んで周りの人に迷惑かけるパパなんて嫌だ」
「そこら辺は問題ないというかなんというか……」
「……人に言えないような悪い仕事じゃ、ないよね」
「と、当然だ、悪いことなんてしてないぞ」
「ならいい。早く離れて……あと、明日晩ごはんのお使い、頼んでもいい?」
「おう、もちろんだ」
 嬉しそうに答え、千冬はベッドから下りた。
「パパに任せろ、何なら代わりに晩ごはん作っちゃうぞー」
「それは自分で出来る」
 眠そうに呟き、タツキは布団を被った。

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