おしおきとおやくそく

「どうしたんだい2人とも、似たような顔して」
 ミステリー部部室の椅子に座らされた雅也は、顔を上げて美月と大介の顔色を窺った。見下ろしてくる2人はどちらも機嫌が悪そうで、少しでも刺激すれば雷が落ちてきそうだ。先に部室にいた小早川少年もどこか緊張した表情で3人の様子を遠くから見ている。
「ひどいですよ先生、タツキさんにあんな破廉恥なことをっ」
「大げさだなぁ大介君は。僕はただタツキちゃんを助けただけだよ、しつこい男の子から教え子を守るのは教師として当然のことだろう?」
「だからといってタツキさんにあんなことを……っ! そもそもそういった役割は本来僕がやるべきで……」
「何でタツキちゃんにチューしたのまー君っ!」
 大介を押しのけ、美月が雅也に詰め寄る。
「大介君、小早川君連れて帰っていいよ」
「ですがまだ、」
「帰って!」
「はいっ!」
 どっちが先輩で部長なんだろう。情けないとは思いつつも大介は美月に従った。
「まー君……」
 美月が雅也の膝の上に跨る。ただでさえ短いスカートがまくれ上がり、太ももが男性陣の目に映った。大介は目を背け小早川の手を引いてドアに向かう。
「むぅぅ許さないっ」
 ふくれっ面の美月が手を伸ばして雅也の頬を軽くつまむ。
「胸当たってるよ美月ちゃん。もしかして僕とタツキちゃんの仲に嫉妬してるのかい、可愛いなぁ美月ちゃんは」
「うるさいっバカバカまー君の馬鹿ぁぁ」
 美月は頬をつまむ指に力を入れた。
「見ちゃいけません」
 小早川の目を手で覆い大介は部室を飛び出した。ドアを閉める直前、雅也の悲鳴が聞こえたような気がするが戻るわけにはいかない。
「先生の事は美月さんに任せて僕達は2年の教室に行きましょう、まだタツキさんが残っているはずですから」
「うん……せんせー大丈夫かな」

「痛い、痛いよ美月ちゃん、ほっぺたが取れる」
 美月の手を取りなんとか頬から引き離すと、むすっとした表情の美月がもたれかかってきた。
「美月ちゃん」
 返事はない。髪を撫でると肩に顔を埋めてきた。
「まー君なんか大っ嫌い」
「ごめんよ美月ちゃん」
「……タツキちゃんと一緒に部活辞める」
「……いいのかい? 合宿があるのに」
「行かないもん」
「本当にいいのかい、今年は1泊2日で海にも行くんだけどなぁ」
「えっ、海!?」
 美月が顔を上げた。目を丸くしてじっと雅也を見ている。
「校長先生が特別に部費上げてくれたから海の近くにある旅館で1泊出来るようになったんだけどなぁ、辞めるなら仕方ないなぁ。部長と小早川君とでもう1泊しようかな、あの旅館の料理おいしいらしいし」
 呑気な口調で喋りながら雅也はそっと美月の様子を窺った。思惑通り迷っているようだ。
「むうぅ……部活、辞めない。辞めないしまー君のこと大好き」
「そっか、嬉しいな。僕も美月ちゃんのこと大好きだからね」
 すっかり機嫌が直ったらしく、合宿の日時や料理の内容を尋ねてくる。
「まだ他の部員に言っちゃだめだよ、詳しい日程を決めてから発表するつもりなんだからさ」
「えへへ、わかってるよ。すっごく楽しみ」

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