ある休日のこと
「今日は何して遊ぼっかな〜♪ タツキちゃん家にいるかな〜」
スキップをしながら、美月はタツキの家に向かっていた。今日は土曜日。タツキはきっと家で暇そうにしているはずだ。そう思いながらタツキの家の近くまで来ると。
「……あれ?」
タツキが玄関にカギをかけていた。美月は声をかけようと一歩近付く。
(……何だろう?)
美月が違和感を覚えているうちに、タツキは立ち去ってしまった。
「……あ、服だ!」
タツキの服が、見慣れた制服姿ではなかったのだ。肩に掛けられた小さめのカバンも黒を基調としたワンピースも、美月にとっては初めて見るものだ。
「お休みの日も制服着てるのに……もしかしてデートなのかなー」
「何ですって!?」
美月の言葉に反応した男子生徒が一人、すぐそばの角から飛び出してきた。
「大介君……タツキちゃんに付きまとっちゃダメって言わなかったっけ?」
「付きまとってなんかいません! それより、デートなんですか!? タツキさんは僕に内緒で他の男性と」
「跡でもつけなきゃわかんないよー」
頬を膨らませた美月の両手を握り、大介は必死の形相で言った。
「早く跡をつけましょう!」
「いいのかなー。見つかったら嫌われちゃうよ」
「いいんです」
運良くタツキを見つけた2人は、彼女に見つからないよう距離をおいて跡をつけていた。タツキは2人に気付いていないらしく、しばらく歩いた後図書館の中に入っていった。2人も続けて図書館に入る。
「それにしても、私服姿のタツキさんも美しいですね……」
「……図書館に行くのにわざわざあんな可愛い服着るとは思えないんだけどなー」
見つからないように、けれど見逃さないようにじっとタツキを見ていた2人だったが、突然大介が小さな悲鳴を上げた。
「大介君静かに! 見つかっちゃう!」
「でも、あの人が……」
不安げな大介の視線の先で、派手な髪型の男性が馴れ馴れしくタツキに何か話しかけていた。茶髪と金髪の入りまじった長身の男性と話すタツキの表情は、相変わらず無表情だ。
「知り合いなのかなー」
男性がタツキの手を引いて図書館を出る。2人の近くを横切ったその男性は、結構若く見えた。
「お前この前もその格好だったろ」
「うるさい」
親しげな会話が聞こえてきた。
「一体何なんですかあの人は! タツキさんのことをお前呼ばわりしたあげく、パフェまで食べさせてもらうなんて……従兄妹だったとしても許せませんね」
「うるさいよ大介君」
2人はまだ、タツキと男の跡をつけていた。図書館を出た後、タツキと男は近くのファミレスに入った。見つからないよう外から中をうかがっていた大介と美月は、タツキと男が2人でパフェを分け合って食べているのをはっきりと見てしまった。数十分後に店を出た2人は、今親しそうに手をつないで歩いている。行き先はおそらく、タツキの家。
「あああああ……タツキさんはああいう方が好みだったんですね」
「私もパフェ食べたかったなー」
跡をつけ始めてから2時間くらい経っただろうか。美月のお腹がぐぅと鳴る。
「タツキちゃん帰るんだね。あの人はどうするんだろう」
しばらくついていくと、予想通りタツキの家に辿り着いた。タツキと男は何か話している様子だったが、タツキが玄関のカギを開けると、真っ先に男が家の中に入って行った。
「僕でさえまだタツキさんの家に入ったことがないというのに……っ!」
「ちょっと大介君!」
美月の声を振り払い、大介は駆けだした。急いでタツキの家のチャイムを鳴らす。
「……先輩?」
「タツキさん!」
端正な顔をゆがめ、大介はタツキに抱きついた。
「大介君ずるい〜」
追いついた美月が大介をタツキから引き離そうとする。
「その2人、ずっとついてくると思ったらお前の知り合いだったのか」
大介と美月が顔をあげると、家の奥から出てきた男と目が合った。
「……気付いてたの?」
「当然。しかも図書館で見かけた可愛い子がついてくるんだからなぁ。コイツは気付いてなかったようだけど」
そう言って馴れ馴れしくタツキの肩を抱く。
「タツキさん誰なんです、この方」
「……母さんの、元夫」
「何も突き放した言い方しなくてもいいじゃないか。元お義父さん、だろ?」
「お、おとうさん!?」
大介は目を丸くして固まった。
「タツキちゃんのおとうさんわかーい、それにかっこいー」
「褒めると調子に乗るぞ、このおじさん」
「ひどいなー、まだ24だぞ」
「じゃあ本当のお父さんじゃないのかぁ……あ! タツキちゃん、お泊りの話忘れてないよね?」
「……」
無視された。
「もうっ、タツキちゃんったら!」
美月が頬を膨らませる。
「へぇ……しばらく見ないうちに友達出来たのか」
タツキと美月のやりとりを眺めながら、タツキの元義父が呟いた。