おとまり

「何で僕まで」
「いーじゃん兄貴賢いんだし」
 午後8時。パジャマ姿の青山兄弟は隣の家のチャイムを鳴らした。しばらくして葉月が出てくる。
「2人とも来てくれたのね、達樹君も2人がお泊りに来てくれるの楽しみにしてたのよ」
 パジャマなのだろうか、葉月は下着のような露出の多い格好をしている。
(やっぱりオバさんケバい)
 葉月から目をそらした潤の視界に、階段を下りてくる達樹の姿が見えた。
「潤君!」
 ふんわりとした白いネグリジェ姿の達樹が潤に抱きついてきた。
「タツキちゃん……へへ、可愛いなあ」
「ほら、お勉強するんだろう」
 鼻の下を伸ばすだらしない弟に冷ややかな視線を送り雅也は家に上がった。

「あっ俺らの部屋が見える、ここタツキちゃんの部屋だったんだ」
 自宅の部屋の窓から見えた可愛らしい家具が並ぶ部屋、そこが達樹の部屋だった。
「君目的忘れてないよね」
「あ、タツキちゃん一緒にひらがな練習しよう。俺が教えてあげる」
 達樹が頷き、ノートと鉛筆を持ってきた。
「学校に行くようになったら潤の方が勉強教えてもらってそう」
「そんな事ねーよ」
「潤、そこ“ん”の字が逆になってる」
「あっいけねっ」
 潤と達樹は寄り添い合って鉛筆で文字を書いている。時々手を休める潤とは違い、達樹は熱心に文字を書いていた。
(おねえさんが教えてないだけで、潤より覚えるの早いなぁ)
 この様子だと達樹が潤に漢字を教える事になりそうだ。
「潤、手が止まってる」
「うるせーな。タツキちゃんはあんな嫌な奴になっちゃダメだぞ」
 達樹の大きな瞳が雅也をじっと見つめる。そういえば潤のせいでロクに自己紹介していなかったっけ。
「僕の事はまー君って呼んでよ」
「まー君」
「あっ兄貴ずるい、俺もタツキちゃんにあだ名で呼ばれたい」
「そんな事しなくても充分仲良いじゃないか」
 兄弟のそばで達樹があくびを漏らした。雅也が部屋の時計に目をやると9時前だった。
「そろそろ寝ようか」
「えーっまだ眠くないぞ」
「そう言っていつも潤の方が先に寝るだろう」
「そんな事ねーよ俺夜更かし出来るもん大人だもん」
 潤は胸を張って達樹を見たが、達樹は眠そうに目をこすっている。
「達樹君、そろそろ寝る時間よ」
 部屋に葉月が顔を出した。達樹が立ち上がり小さな声で呟く。
「……おしっこ」
「俺も、タツキちゃん一緒にトイレ行こっ」
 達樹の手を引き潤が嬉しそうに部屋を出ていく。
「潤君と達樹君、ホントに仲良しね……まー君、3人で寝れるかしら」
 葉月に訊ねられ、雅也は部屋のベッドを見た。
「広いから大丈夫だと思う」
「達樹君をお願いね……おやすみまー君」
 葉月が雅也の頬にキスし部屋を出た。しばらくして浮かない表情の潤と眠そうな達樹が戻ってきた。
「大好きな達樹君の前でお漏らしでもしたのかい」
「違う……タツキちゃん男だった……」
「だから言ってるだろう……僕もう寝るよ、おやすみ」
 雅也がベッドにもぐる。続いて達樹もベッドに入った。
「おやすみ達樹君」
「おやすみまー君」
 達樹が雅也の頬にキスをした。おそらく葉月が、毎晩こうやっているのだろう。
「あっタツキちゃん俺も!」
「おやすみ潤君」
 達樹に抱きつき唇を塞いだ潤がそのままベッドに倒れ込む。
「君男の子に何してるんだい」
「タツキちゃんは可愛いからいいんだよ、ほら兄貴電気消して」
「えーめんどくさいなあ」
 雅也はゆっくりベッドを出た。すでに寝息が聞こえる。いつもならうるさい潤も黙り込んでしまった。
(本当に仲が良いなぁ)
 電気を消し雅也はベッドに戻った。

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