みんなでお勉強
「こ、小早川君、もうちょっと鬼頭先生から離れた方が……」
顔を赤らめて注意した純に、小早川はええーっ何でー、と返した。
タツキからの頼みで「小早川の勉強会」に付き合うことになった純。最初は嫌そうな顔をしていた小早川も、純の担当科目が国語と知るや否や顔色を変え、笑顔で純を受け入れた。先に数学の問題集を解く、とのことで時折助言しつつ待っていた純だが、小早川がタツキに馴れ馴れしく寄り添っているさまが見ていて恥ずかしいというか照れくさいというか、とにかくいたたまれなくなったので声をかけたのだ。
「よし、数学出来たー。純ちゃん国語教えてくれっ」
「教えてください、でしょ」
「……教えてください純ちゃん先生。数学終わったしさ、タツキちゃんは休んでなよ」
小早川はそう言うとタツキの身体を抱え上げベッドに運んだ。
「ちょっと小早川……」
「ちゃんと12時になったら起こすからさ」
タツキをベッドの上に寝かせ布団をかけると、数分も経たないうちに寝息が聞こえてきた。
「早っ」
驚いた様子でタツキの頬をつつく小早川。起きねーのかな、と呟きながら布団の中に手を突っ込んだ。
「だめだよ小早川君、鬼頭先生に変なことしちゃ」
「別に変なことなんかしてねーよ」
「ほら、国語の勉強しよっ」
国語、と聞き小早川はベッドから離れた。カバンを漁り問題集を取り出す。
「1ページ目からなんだけどさ、何でこうなるんだよわけわかんねぇ。問題読むのもめんどくさいし」
「ちゃんと本を読むようにしなきゃ」
「長いから途中で嫌になるんだよなぁ……あ、本だけどさ、読書感想文って何の本にすりゃいいの、これ借りたんだけどダメ?」
カバンから出てきたのは、ブックカバーの付いた文庫本。本を手渡された純はページを開くなりさっと顔を赤くした。
「えっ!? こ、こんなの、ダメだよぉ」
タイトルを確認しさらに赤くなる。
「ダメなんだ」
「こんなの読んでたら鬼頭先生に嫌われるよ……」
本を返すと、小早川はつまらなさそうにカバンに戻し、カバンごと部屋の隅に放った。
「じゃあ何の本にしよ、感想文は後回しにしてこっち教えてくれっ」
「ううう……」
12時。小早川の質問攻めに疲れた純はぐったりと机に突っ伏している。
「タツキちゃん起きてよー」
「んっ……」
布団を引っ剥がされタツキは目を覚ました。ベッドから降りようとすると小早川のカバンが目についた。中に文庫本が入っている。小早川も本を読むのか、と何気なく手に取ったが。
「あ、タツキちゃんそれは……」
小早川が止めるが遅かった。文庫本の中に目を通したタツキの表情が険しくなる。
「……巨乳、女教師……」
「わわわだめぇぇ、そっそれ俺のじゃないし! 倉田に借りたやつだし!」
「……変態」
「べ、別に俺、タツキちゃんのことそういう目で見てないし……」
「見てたら絶交だ」
ぷいとそっぽを向きタツキは純のそばに向かった。
「大丈夫ですか稲村先生。ちゃんと家まで帰れます?」
「うう、大丈夫です」
タツキの肩を借り立ち上がる純。ぴったりとくっつく2人に小早川は唇を尖らせた。
「純ちゃんだってさ、どさくさに紛れてタツキちゃんのお尻触るかもしれないじゃん」
「稲村先生がそんなことするわけないでしょ」