ふたりでお勉強
「なぁタツキちゃん、ここってこれで合ってる?」
タツキの右腕に寄り添うようにもたれかかり、小早川が訊ねた。
「小早川、暑苦しい」
「へへ、いいじゃんこういう時くらい。せっかくタツキちゃんと一緒に勉強出来るんだぞ」
毎週火曜日と木曜日、朝9時から12時。
仲良しな先生と一緒に過ごせて夏休みの宿題も仕上がる。時々祖父が様子を見に来るのを我慢すれば文句なしだ。
「そこ。計算が違う」
「はーい」
タツキから一旦離れ、消しゴムで解答を消す。答えを書き直し、再びタツキにもたれかかった。左手でスカート越しに太ももに触れると、呆れたような声が返ってきた。
「小早川」
「へへ、ありがとなタツキちゃん。俺なんかのために勉強会してくれてさ」
「……っ」
小早川が笑顔で返すと、怒るタイミングを逃したタツキがそっぽを向いた。
「うひひ、これで今年はすぐに宿題終わるぞー」
「……終わったからって遊んでばかりじゃ駄目だからな。夏休み明けにはテストがあるんだぞ」
「うへぇーやだー」
わめいてもテストは無くならない。がっくりと肩を落とし、小早川は目の前の問題集に向かった。が、目の前にずらりと並ぶ数式が小早川のやる気と集中力を削いでいく。いくら隣にいるタツキに良いところを見せようとしても、苦手なものは苦手だ。
「……あのさぁタツキちゃん、野田っちとはどういう関係なんだよ」
「どういう、って……先輩は先輩だけど」
「野田っちが言ってたぞ、タツキちゃんをお嫁さんにするんだって。チューしたことあるって言ってたけど、ほんと?」
「そんな事あるわけないでしょ。変な事言ってないでちゃんと解きなさい」
「おう」
再び動き出すペン。だがその動きはすぐに止まり、代わりに小早川の口が動いた。
「けど野田っちが言ってたよ、タツキちゃんが酔っ払ったときに身体中べたべた触りまくったって」
「嘘っ」
「うそだけど」
「……もう。ふざけてばかりで勉強しないなら、帰るよ」
「ごめんなさい」
「ほら、2で割る」
「あっいけね、忘れてた」
12時のチャイムが聞こえてきた。
「もう終わりかー」
名残惜しそうに小早川が呟く。これ以上勉強しろと言われるのは嫌だけどもう少しタツキと一緒にいたい。
「ちゃんとテストに備えて復習もするのよ」
小早川が勉強道具を片付けていると、部屋のドアが開いて照れくさそうな表情を浮かべた八木が現れた。
「武、おじいちゃんそうめん茹でたんじゃけど食べるかの」
「何やってんのじじ……じいちゃん」
「食べないのかの、せっかくだから鬼頭君にも食べてもらおうと思ってたくさん作ったんじゃが」
八木がちらりとタツキの方を見ると、小さな頷きが返ってきた。
「八木先生がそう言うなら……」
「おお、食べてくれるのか嬉しいのう。じゃあ向こうで一緒に食べよう」
八木に手招きされ、タツキが後に続く。
「お、俺も食べるよっじいちゃんの作ったそうめん!」
慌てて小早川も後を追った。