寄り道しよう
「タツキちゃん帰ろ〜」
教室を出ようとしたタツキに、いつものように美月が抱きついてきた。
「美月ちゃん、社会の小テストの追試あるんだけどなぁ」
呑気に呟く担任を無視して教室を出る。
「先生に怒られるよ」
「いいの! ね、一緒に帰ろ」
パタパタと足音を立て、美月は早足で学校を出た。美月に引きずられる格好でタツキも校門を出る。ここまで来れば担任も部長もやって来ないはず。一息つき、美月はタツキの左手を握った。
「タツキちゃん、明日の給食って何だっけ?」
「知らない」
やっと学校が終わった。早く休みになればいいのに。
一緒に帰る人なんていないから、早足で学校を出て行く。校門を出た瞬間、解放された気分になった。早く帰って宿題をして寝よう。
そう思い、走ろうとした時だった。
「あ!」
前のほうで女子が振り返り、こちらを見て大声を上げた。
「タツキちゃん、お友達がいるよっ」
朝野さんだ。俺に向かって手を振りながら、もう片方の手でタツキちゃんの手を引っぱっている。そして俺の前まで駆け寄り、
「一緒に帰ろ!」
振り回していた手で俺の手を握ってきた。
「わ、いいですよ別に。いつも一人で帰ってるし……」
「じゃ、今日は3人で帰ろ」
ニコニコと可愛らしく笑う朝野さんに手を握られて、断ることの出来る男子生徒なんているのだろうか?
気が付けば俺は2回も頷き、朝野さんに手を引かれて歩いていた。
「タツキちゃんは好きな人いないのー?」
「いない」
「えーっ。私は?」
「……ちょっとうるさいところが嫌い」
「むーっ」
朝野さんが頬を膨らませる。プクッと膨らんだ頬はすぐに元に戻り、代わりに大きな瞳が俺を見つめていた。
「じゃあタツキちゃんのお友達は? 好きな人いるの?」
いきなり何を言い出すんだ、この人は。
「い、いないよ。それに、俺タツキちゃんの友達じゃないです」
「違うの?」
俺とタツキちゃんが同時に頷く。
「そっかー。じゃ、ミステリー部に入る?」
「ミステリー部?」
部活か。どこに入ろうか全く考えていなかった。
「うん。この前タツキちゃんが入部してくれたのー」
「考えときます……あ、家だ」
いつの間にか家の前まで来ていた。
「うん、ばいばーい」
朝野さんと眠そうなタツキちゃんに手を振り、俺は家の中に入った。