補習
「むーっ。何でタツキちゃんじゃなくて大介君なのー」
ミステリー部の部室(仮)である生徒会室で、美月は部長に向かって頬を膨らませた。
「僕だって好きで貴女のお勉強をみてるわけじゃないんです。タツキさんが用事があるそうなので仕方なく貴女のお相手をしているんです。早い話、貴女がテストで赤点さえ取らなければこんなことにはならなかったんですよ」
「だってー、こんなのわかんないんだもん」
「ですからここは、」
顔を上げると、ふくれっ面の美月と目が合った。
「……僕じゃなくて教科書を見てください」
「はーい」
しぶしぶ教科書とにらめっこする美月。
「割り算じゃなくて掛け算ですよ、そこ」
「むー」
しばらくの間、ノートの上を走る鉛筆の音だけが部室に響く。
「……大介君さ、タツキちゃんのこと好きなんだよね?」
「な、何でそれを」
誰にも知られていないはずなのに。大介は動揺した。
「見ればわかるじゃん」
鉛筆を置き、美月は口をとがらせた。
「私もタツキちゃん好きー。ね、きいてきいてー。私ね、今度の土曜日にタツキちゃんのお家に泊まるんだー」
「何ですって!? うらやましすぎます、僕だってタツキさんとっ……」
「うるさい」
不機嫌そうな表情でタツキが部室に入ってきた。
「タツキさん!! 用事は済んだんですか?」
抱きつこうとする大介を避け、タツキはテーブルについた。美月が甘えた声で擦り寄ってくる。
「ねーねータツキちゃんこれ教えてー。大介君の説明難しくてわかんないのー」