窓の外はいい天気

「タツキさぁぁぁん」
 廊下に響く少年の声。また部長だ。
 とっさに隠れようとしたタツキの前に、大介が立ちはだかる。
「タツキさん、今日も美しいですね……どこ行くんですか?」
「トイレ」
「そっちにトイレは無いですよ」
 爽やかな笑みを浮かべ、大介はしっかりとタツキの両手を握った。
「ところで次の土曜日……」
「無理です塾があります」
「あなた塾には行ってないはずですよ。それに塾は関係ありません。次の土曜日にタツキさんの家にお泊りしてもいいですか?」
「駄目です」
 タツキがきっぱりと断ると、
「どうしてですかっ」
 と大介が顔を近づけてきた。周りからはヒソヒソと小声で誰かが話しているのが聞こえる。こちらを指して「あの子が生徒会長の彼女……」と囁く女子がいて、タツキは逃げ出したくなった。
「どうしても、駄目です」
 なんとか教室に戻ろうとするが、両手を握ったまま大介がついてくる。
「離して下さい先輩。嫌いになりますよ」
「あああっ、それは困ります!」
 パッと手を離し、大介は慌ててタツキの様子を窺った。彼女は少し怒っているようだ。
「嫌いにならないでください、お願いします」
 少し顔をしかめ、タツキが小さく頷いた。
「あ……ありがとうございます!」
 嬉しそうに、大介はタツキに抱きついた。
「……先輩……」
「人前でベタベタくっついて、どうしたんだい2人とも。タツキちゃん、とうとう折れたのかい?」
 ニヤニヤした笑みを浮かべ、雅也は楽しそうに2人を交互に眺めた。
「違う……先生、先輩がしつこいんです」
「なんだ、まだストーカーしてたんだ」
「違いますよ……あ、タツキさぁん」
 隙を突いたタツキが大介の腕を振りほどいた。
「あーあー、タツキちゃん、もうすぐ授業だよ」
 雅也はタツキの身体を抱きかかえた。
「先生、降ろしてください」
「ヤダ」
「タツキさん嫌がってるじゃないですか」
「でも離すと逃げちゃうし君がまたストーカーするだろう」
 バタバタと暴れるタツキの手足をかわし、雅也は窓に目をやった。
「追いかけっこなら昼休みにでも外でやらないかい? ほら、外はこんなに晴れてるよ」

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