昼休み

 いつものように教室から出て行こうとしたタツキに美月が抱きついてきた。
「朝野……?」
「タツキちゃん、今日のお昼休みに部活あるんだって」
 右手にリンゴを、左手にタツキの腕をつかんだ美月を見つめ、タツキは仕方なく生徒会室に向かった。

「タツキさんお久しぶりです……相変わらず美しいですね」
 今朝会ったばかりなのに、大介は懐かしそうにタツキの両手を握りしめてきた。
「先輩気持ち悪いです」
 タツキは手を振りほどこうとしたが、中々離れてくれない。
「大体、部活はどうしたんですかっ。無いなら帰りますよ」
「部活? ありませんよ部活なんて。今日は美月さんが、何か貴女に言いたいらしいですよ」
 美月の方を向くと、美月が恥ずかしそうにうつむいた。
「貴女よくいなくなるそうですから、美月さんは心配してるんですよ。僕も貴女の事を想うと胸が痛くなります……」
 そう言ってタツキを抱きしめようとした大介を、美月が突き飛ばした。
「あのねっタツキちゃん! いつもお昼休みにいなくなっちゃうでしょ? もしかして……私の事嫌い?」
 美月が大きな瞳でタツキをじっと見つめた。しばらくして、タツキはゆっくりと首を横に振る。
「違う」
 えへへ、と笑って美月が抱きついてきた。大介が羨ましそうに二人を眺める。
「じゃあどうしていなくなっちゃうの?」
「……先輩が、しつこいから」
 美月はタツキから離れ、大介に近寄った。
「大介君、タツキちゃんに近付かないでね」
「それは無理です……」
 青ざめた部長の耳元で、美月はそっと呟いた。
「……タツキちゃんが部活やめちゃったらどうするの?」
「あああ……それは嫌です!」
「でしょ? 気をつけてね。約束だよっ」
 大介に念を押し、美月はタツキを連れて部室を出て行った。

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