屋上へ続く階段
やっぱりつまらない。小学生の時にいっぱい意地悪したのがいけなかったのかもしれない。あるいは「悪い子」にも「良い子」にもなりきれなかったことが原因なのかもしれない。
屋上に上がろうと小早川は階段を昇ったが、鍵がかかっていた。
「……ちっ」
仕方なく階段に座り込む。滅多に人など来ないだろうから、しばらくの間ここにいよう。
女子の甲高い声が遠くから聞こえる。光の当たらない学校の片隅で、小早川はうとうとし始めた。
チャイムが鳴った瞬間、タツキは教室を飛び出した。
「あ、タツキちゃん待ってよぉ」
給食のゼリーを片手に美月が叫ぶ。タツキは聞こえないフリをした。
(捕まってたまるか)
昼休みになるといつもやって来る部長。最近行動が少しストーカーじみていて鬱陶しい。どこか隠れるのに適した場所――あの真面目な部長が絶対に立ち入らないであろう場所――を探しているうちに、屋上へ続く階段の前に着いた。鍵なんて開いているのだろうか?
一段ずつ上がり、踊り場で立ち止まる。振り返ってみると遠くからにぎやかな声が聞こえてくる。今立っている場所とは雰囲気が違うような気がした。
向きを変え、タツキは残りの階段を上がろうとしたが。
「……」
誰かがいる。体育座りの格好で顔を伏せているから誰なのかよくわからないが、根元が黒い中途半端な金髪の男子生徒。タツキの視線に気付いたのか、彼はゆっくりと顔を上げた。幼い顔立ちをしている。
「……あ!」
声を上げたのは、この前の1年生だった。手招きされ、タツキは階段を駆け上がり彼の隣に座った。
「何でここにいるの?」
「……タツキちゃんこそ」
バタバタと廊下を駆ける足音と「タツキさーん」と叫ぶ男子の声。
「……色々あって……」
「大変そーだね」
ぼんやりと呟き、小早川はタツキの肩にもたれかかった。
「なっ……」
「眠い……タツキちゃん、ここにいてくれる?」
甘えたような声で小早川は言った。
「……うん」
すやすやと眠る小早川の隣でタツキはボーっとしていた。
「……あー! タツキちゃん見っけ!」
その大声で我に返ると、踊り場に美月がいた。
「本当ですか!? タツキさん、どうしてこんなところに……」
踊り場まで駆けてきた大介は、タツキとタツキの隣で眠る少年を交互に眺め固まった。
「誰ですかその方……」
「タツキちゃんの弟だよっ!」
自信満々に美月が答える。
「違う」
「あれ? 違うの?」
「じゃあ誰ですか!? まさか恋人……」
部長が泣き出しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「違います」
タツキはそっと小早川を揺さぶった。
「タツキちゃんどうしたの……?」
小早川は目をこすりながら辺りを見回した。タツキちゃんのお友達の朝野さんともう一人、見たことあるような気がするけど思い出せない人がいる。誰だっけ?
「もうすぐ昼休み終わっちゃうよ!」
「……そっか……」
またあの教室に戻らなくてはいけないのか。
「タツキちゃん、またね」
タツキに手を振り、小早川は階段を下りていった。
「行っちゃったね……」
「……あの方、もしかして」
小早川が去っていった方向に顔を向け、大介はじっと考え込んでいた。
タツキの手を握ったまま。