ネクタイ

「美月ちゃんおはよー」
　教室に入るなり、タツキは雅也に抱きつかれた。
「……先生」
　紺色のネクタイをじっと眺めながら、タツキは雅也を押しのけた。
「あ、ごめん。間違えた。おはようタツキちゃん」
　雅也はもう一度タツキに抱きつこうとしたが、伸ばした手はかわされてしまった。
「おはよーまー君」
　少し経って、美月が教室に入ってきた。
「おはよー美月ちゃん。遅かったじゃないか」
　待ってましたとばかりに雅也は美月に抱きついた。
「えへへ、階段の途中でシューズ脱げちゃったのー」
「美月ちゃん、可愛いなぁ……っ」

　放課後。美月はタツキの手を引いて走り出した。
「朝野！？　一体どこへ……」
「部室だよっ」
　勢いよくドアを開け、美月は部室（仮）である生徒会室に入った。
「大介く〜ん、新しい部員だよー」
「そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてますよ……あ、貴女は……」
　大介は動きを止め、タツキをうっとりと見つめている。
「タツキちゃんがね、ミステリー部に入るんだって」
　そんなこと一言も口にした覚えがない。
　しばらくの間ボーっとタツキに見惚れていた大介だったが、おもむろにタツキの手を握ると、
「ぼ、僕は野田大介ですよろしくお願いしますタツキさん」
　と一気にまくしたてた。美月が拍手をする。
　少し面倒臭いけど、暇だし仕方がない。
「……よろしくお願いします」
　小さな声でタツキは言った。大介の表情がぱあっと輝く。
「はい！」
「どーしたんだい皆。幽霊でも出たのかい？」
　３人が入り口の方を見ると、雅也が不思議そうにこちらを見ていた。
「まー君、入部届ちょうだい！　タツキちゃんミステリー部に入るって！」
「本当かい？　男前と美少女とカワイコちゃんと美少年が揃ったねーすごいねーせっかくだから合宿でもやろうかな？」
　ニヤニヤ笑いながら、雅也はタツキの頭を撫でた。
「僕が男前の顧問だよ、よろしくねー」
「どこが男前なんですかっ、触らないで下さい」
　雅也の手から逃れようとしたタツキの視界に、雅也の緋色のネクタイが入った。
「先生、ネクタイ……」
「ん？　よくわかったねー。コーヒーこぼしちゃったんだ。それよりタツキちゃん。ネクタイに気付いたってことは、もしかして僕のこと好きなのかい？」
「違います」

戻る