テスト返却5秒前
「はーいテスト返すよー」
いつものようにニヤニヤとした笑みを浮かべ、雅也はテストの束を手にした。
「まー君!」
美月が手を挙げた。
「どうしたんだい?」
「満点はいますかっ」
「いるよ、一人だけ。でもキミじゃないよ」
「え〜っ……」
手をおろし、美月はうつむいた。
「タツキちゃんの隣に座りたかったのになぁ」
「残念だったねー。ところでどこから湧いてくるんだい、その自信は。キミ空欄だらけなんだから満点なワケないだろう」
「むーっ」
美月は頬を膨らませた。
「そんな可愛い顔したってダメだよー。じゃ、返すからね。出席番号順に取りに来て」
「ねぇタツキちゃん……何点だった?」
暗い表情で美月がタツキの答案を覗く。
「朝野……?」
「えへへ……40点だったよぉ、怒られちゃう」
それを聞いたタツキがそっと自分の答案を隠したのを、美月は見逃さなかった。
「タツキちゃん見せて見せて〜」
タツキに抱きつき、美月は答案を奪った。
「朝野……っ」
「……わぁっ、いいないいな満点! まー君、タツキちゃん満点だよっ!」
「そうだねぇ。でも僕、タツキちゃんとは約束してないからね。キミを隣の席にはしないよ」
「じゃあ、次から約束。タツキちゃんが100点取ったら、私の隣の席〜」
「そんなことしたらキミがずっとタツキちゃんのお隣になるじゃないか。ダメだよ」
「そんなぁ……」
「キミが頑張ればいいんだよ。タツキちゃんに勉強教えてもらってさ」
雅也の言葉に、美月は瞳を輝かせた。
「タツキちゃんに!? 教えてもらうの!? わーい!」
「先生……」
タツキは恨めしげに雅也を睨んだ。何かを教えるのは苦手だ。
「いいじゃないか、キミ達仲良しなんだし。これで美月ちゃんの成績が上がれば言う事ナシだよ」
どうも雅也にいいように扱われているような気がしてならない。