居眠り

 誰かに手を握られている。
 表情はよく見えないけれど、なんとなく父親のような気がした。少し前に母と喧嘩をして別れた男ではない、本当の父親だ。顔なんて一度も見たことが無いのに、なぜだかそんな気がした。
「美人になったわねー、タツキちゃん。お父さんにそっくり」
 不意に母親の言葉が浮かんできた。あまり自分に似ていない母親。父について話してくれたことなんてない。ただそっくりだと、そう言っただけだ。
 ぼんやりと考え込むタツキの頬に、長い指が触れた。
「タツキ」
 相手が――父が、タツキの前にしゃがみ込んでいる。ぼんやりしていて顔は見えない。
 ただ、光を受けて輝く綺麗な髪だけがはっきりと記憶に残って――
「……」
 目を開けると、すぐそばにニヤニヤと笑みを浮かべる担任がいた。
「おはよう」
「……先生……」
 隣の空席に腰かけ、ぴったりと机をくっつけた状態で雅也はタツキを眺めている。
「先生じゃなくてまー君。今小テスト中なんだけどね〜」
「……ごめんなさい」
「いいよいいよ、キミは寝てても。面倒臭いんだ、テストの監視。キミの寝顔見てる方がずっと楽しいや」
 そう言って、欠伸をしたタツキの目元に手を伸ばす。
「美月ちゃんの寝顔も可愛いんだけどね、あの子ヨダレがすごいんだよ。それによく寝ぼけるし。この前なんて僕の指に噛み付いたんだよ。何と間違えたんだろうね〜」
 ガタン、と音を立てて、美月が机に突っ伏した。
「ふみゃ……あ! まー君ひどい! 私もタツキちゃんの隣に座りたいー」
 さっきまで寝ていたのだろう、美月が目をこすりながら叫んだ。
「座りたいかい? 今小テスト中だからさ、満点取ったらこっち来てもいいよ。あと3分しかないけどね」
「はーい」
 あと3分。タツキは慌てて机の上のプリントに向かった。

戻る